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彼からの復讐に耐えた5年目、私は死んだ
北村雅斗(きたむら まさと)と結婚して5年目。 私・北村唯月(きたむら いつき)は自殺した。 もう、あの人の仕打ちには耐えられなくなって、屋上から飛び降りた。 まるではねを失った蝶のように、吸い込まれるように落ちていった。 私の死を知った雅斗は、忘れられない人だった中洲琴美(なかす ことみ)の遺影を抱きしめ、狂ったように笑った。 「やっと、琴美の仇を討てた」 だが、その後―― すべての真実を知った雅斗は、私の墓の前に土下座し、何度も額を地面につけて謝った。
チャプター (1)
第1章
北村雅斗(きたむら まさと)と結婚して5年目。
私・北村唯月(きたむら いつき)は自殺した。
もう、あの人の仕打ちには耐えられなくなって、屋上から飛び降りた。
まるではねを失った蝶のように、吸い込まれるように落ちていった。
私の死を知った雅斗は、忘れられない人だった中洲琴美(なかす ことみ)の遺影を抱きしめ、狂ったように笑った。
「やっと、琴美の仇を討てた」
だが、その後――
すべての真実を知った雅斗は、私の墓の前に土下座し、何度も額を地面につけて謝った。
第1話
雅斗と結婚して5年目。
廃ビルの屋上に、風に髪をさらわれながら、私はぼんやりと立ち尽くしている。
ゆっくりと頭を下げ、遥か下にある小さな景色を見つめた。
昔はあれほど高いところが怖かったのに、今は少しも怖くない。それどころか、すべてから解き放たれるような気さえしている。
私は大きく息を吐いた。
5年もの間、雅斗と縛られ続けたこの悪縁も、もう終わりにしよう。
1時間前。私は病室のベッドに横たわり、自分の人生をどう終わらせるか考えていた。
そこへ、能口理名(のぐち りな)がやって来た。
雅斗の部下であり、琴美の面影を誰よりも色濃く宿した女。
理名は妊娠検査の結果を手にして、愛嬌のある顔いっぱいに得意げな笑みを浮かべながら言った。
「私、妊娠したの。だから、唯月さんには雅斗と離婚してもらうわ」
その言葉を聞いた瞬間、鈍っていた頭が一瞬だけ冴えた。右手が思わずお腹へ伸びたが、そこには何もなかった。
実は、この5年の間に、私にも子どもを授かったことがある。
けれど、雅斗は産ませてくれなかった。
妊娠がわかるたびに私を冷たい手術台へと送り込み、温もりのない器具を体に入れさせては、その手で我が子の命を奪っていった。
一度だけ、私はつわりに必死で耐えながら、こっそり産もうとしたことがある。
けれど4か月目には、もうお腹を隠しきれなかった。
雅斗は冷たい目を向けた。
「まだ俺の子を産むつもりか?唯月なんかに、その資格があると思うのか?」
目を細めた。
若い頃と変わらない、整った顔。けれど、その瞳に昔の優しさはもうなかった。
私を懲らしめるため、雅斗は力いっぱい私を突き倒し、お腹を蹴りつけた。
鋭い痛みがお腹から全身へ走り、私は狂ったようにお腹を押さえた。股の間が、じわりと濡れていった。
ワンピースの下から、赤い血が絶え間なく広がった。
私は絶望のあまり泣き崩れた。
「雅斗、これは私の子ども……私たちの子どもよ!なのに、どうしてこんな仕打ちをするの?どうして私をここまで追い詰めるの?」
けれど雅斗は、顔色ひとつ変えなかった。
「これは、お前が琴美に払うべき償いだ」
青ざめた私は、ふっと惨めな笑みを浮かべた。
そうだ。私は琴美に償わなければならない。
私と雅斗と琴美は、高校で有名な三人組だった。
誰もが、私たちの友情を羨ましがっていた。
けれど、誰も知らなかった。私は雅斗をずっと密かに想っていたことを。
そして雅斗が好きだったのは、琴美だった。
この想いは一生、胸の奥にしまっておくつもりだった。
けれど23歳のとき、琴美が死んだ。
海で命を落とし、遺体すら残らなかった。
あの旅行を手配したのは、私だった。
今でも覚えている。目を真っ赤にして、私の首をつかみながら問い詰めてきた雅斗の姿を。
「唯月……どうして死んだのがお前じゃなかったんだ……」
私は、どう弁解すればいいのかわからなかった。
だって琴美は、確かに私のせいでクルーザーの爆発に巻き込まれて死んだのだから。
千人を超す捜索隊が捜しても、見つかったのは服の切れ端と、雅斗が贈った髪飾りだけだった。
琴美は、そうしてこの世界から消えてしまった。
雅斗は私を心底憎んだ。
それでも母親に迫られ、私を妻として家に迎え入れざるを得なかった。
それ以来、雅斗は、私が彼と結婚するためにわざと琴美を殺したのだと思い込んでいた。
そして今日で、私と雅斗が結婚して5年。
琴美が死んで6年。
私が妊娠したと知った雅斗は、またしても私の子どもの命を奪った。
目を開けたとき、私はどれほど泣き崩れていただろう。
その小さな命をどうか残してほしいと、どれだけ必死に頼んでも、雅斗は少しも心を動かされなかった。
最後には、涙さえ枯れ果てたのか、私はぼんやりと窓の外を見つめることしかできなかった。
「唯月、何を悲劇のヒロインぶってるんだ?たかが子どもひとりだ。琴美が死んだとき、どれだけ絶望したか……お前もやっと分かったんだろ!」
私の体は、雅斗に乱暴に床へ突き飛ばされた。
「お前は一生、琴美に詫び続けろ。死ぬまでその罪に苛まれろ!」
そう言い捨てると、雅斗は冷たく私の体をまたいで、そのまま立ち去ろうとした。
「雅斗……」
私は床から這い上がり、ぽつりと呟いた。
「わかった。私の命で琴美に償う」
そして疲れ切った弱い体を引きずりながら、タクシーで郊外にある廃ビルへ向かった。
そこから飛び降りた。
鮮やかな赤い花が、冷たく枯れ果てた大地の上に咲き誇った。
第2話
次に目を開けたとき。
私は、自分が透き通った魂になっていることに気づいた。雅斗のそばに留まっている。
思わず自嘲の笑みが漏れた。
――死んでも、雅斗からは逃れられないの?
その頃、雅斗は3階の部屋にいる。そこには琴美の似顔絵や写真が所狭しと並べられている。
雅斗が毎日のように足を運ぶ場所だ。
琴美をあまりにも恋しく思うから、彼女を思い出すたび、ここでその姿を絵に描いている。
高校時代、雅斗は絵を描くのが何より好きだった。人物でも風景でも、描けばどれも見事な出来栄えだった。
北村家は、息子がそんな実りのない道楽にふけることを許さなかった。
その後、琴美が死んでから、雅斗は彼女の似顔絵を描くこと以外、二度と筆を取ることはなかった。
この5年間、私も何度となくこの部屋で琴美に詫びてきた。
雅斗は、琴美を死なせた私を恨み、憎んでいる。
本当は、琴美は死ななくてもよかった。私が甘えて、代わりにクルーザーの上まで荷物を取りに行ってと頼まなければ、爆発に巻き込まれて死ぬこともなかった。
5年もの間、あの光景を思い出すたび、私は夜も眠れなかった。
雅斗は言った。すべて、私のせいだと。
そうだ。私が悪いのは紛れもない事実だ。
そして雅斗は、琴美を思い出すたび、そのやり場のない感情をすべて私にぶつけた。
琴美の遺影の前で土下座させ、何度も頭を床に打ちつけさせた。
琴美の両親の家へ行って謝らせ、ひとり娘を失った二人の怒りを受け止めさせた。
何度も何度も、同じ言葉を口にさせた。「琴美、ごめんなさい」と。
「全部唯月のせいだ!」
この言葉を、私は5年間、ずっと聞き続けてきた。
それを思い出して、突然笑った。
ひどく寂しい笑いだ。
今、私は死んだ。
だからこそ、琴美に許してもらいたい。雅斗に、もうあんな冷たい目で私を見てほしくない。
けれど、そんな願いもきっと、叶うことはないのだろう。
翌朝早く、雅斗が起きた。
秘書の斉藤健一(さいとう けんいち)が、恭しく朝食を取るよう促した。
身支度を整えた雅斗は、そっけなく言った。
「唯月は病院にいる。何か体にいいものを持って、お見舞いに行ってやれ」
健一がうなずいた。
すると、そばにいる理名が健一を呼び止め、自分から申し出た。
「私が唯月さんのお見舞いに行くわ。最近はもう気持ちを入れ替えたみたいで、自分がしたことが間違ってたってわかってるみたいよ。ずっと騒ぎも起こしてないから」
「外にも出てないのか?」
雅斗が眉を寄せて尋ねた。
「はい。唯月さんはずっと静かにしています」
健一が答えた。
「社長、私が病院へ様子を見に行きましょうか?」
理名は、フルーツシェイクを飲む手を止め、柔らかな声で言った。
「大丈夫よ、雅斗。私が唯月さんを慰めてあげる。女同士だもの。それに、雅斗もこれだけたくさん物を送って機嫌を取ってあげたんでしょう?それでも駄目なら、もう唯月さんがわがままなんじゃない?」
雅斗は冷たい顔のまま、うなずいた。
私は宙に浮かびながら、その光景を皮肉な笑みで見下ろした。
琴美にどこか面影の似た理名が現れてから、雅斗は彼女を家へ連れ込むようになった。
そして、私を最も残酷なやり方で辱めるようになった。
私は、理名が琴美に似た顔で雅斗に甘えるのが嫌だった。
雅斗が琴美への罪悪感を抱えていることにつけ込み、自分の望みを叶えようとするのも嫌だった。
私が罪を背負っているのは琴美に対してであって、理名に対してではない。
だから理名が何かを求めてくるたび、私は拒んだ。
たとえば、雅斗との離婚を迫られたとき。
雅斗からもらった最初の贈り物をよこせと言われたとき。
そして、琴美が私のために神社で授かってくれたお守りを渡せと言われたとき。
けれど最後には、雅斗がいつも理名のために、それらを私から取り上げた。
きっと彼の目には、理名が琴美そのものに映っているのだろう。
この数年、私の体はどんどん弱っていった。
雅斗が健一に私のもとへ届けさせたものも、結局はすべて理名のところへ渡っていった。
食卓につき、何事もなかったかのように過ごす雅斗を、私はただぼんやりと見つめている。
第3話
その瞬間、私はふと、いろいろなことを思い出した。
あの頃の、私と雅斗と琴美の思い出。
実はずっと、雅斗が想っていた相手は琴美だった。
誰の目にも明らかだった。
雅斗はいつも私に琴美の好きなものを聞いてきたし、琴美への贈り物を選ぶために私を連れ回した。琴美と遊びに行くためなら、わざと先に私と約束することさえあった。
ときどき、私は雅斗を恨んだ。
幼なじみなのは私のほうで、彼と知り合ったのも私のほうが先だった。
なのに高校2年のとき、転校してきた琴美を目にしてから、雅斗の視線は二度と私に向かなくなった。
正直に言えば、琴美を恨まずにいるなんて無理だった。
でも、琴美はあまりにも優しい人だった。誰に対しても柔らかく接し、いつだって人当たりがよかった。そんな彼女を嫌う理由なんて、私にはなかった。
だから私は、雅斗が琴美を想う気持ちを受け入れ、二人の仲を後押しする側に回ることも受け入れた。
ただ、諦めることも、二人を結びつけることも、思っていた以上に難しかった。
一度、琴美と遊びに出かけたとき、私はうっかり川に落ちたことがある。
琴美は泳げたけれど、私は泳げなかった。
ところが、それに気づいた雅斗は迷うことなく水の中へ飛び込み、一直線に琴美のほうへ泳いでいった。
水の中から、私は二人がどんどん遠ざかっていくのを見ていた。
あのとき、自分が死ぬのだと思った。
幸い、最後は通りかかった人に助けてもらった。
そのとき雅斗は罪悪感から、1週間ずっと私の面倒を見てくれた。
琴美も彼をこっぴどく叱った。
私は何を言えばいいのかわからなかったけれど、それでも雅斗の謝罪を受け入れた。
これだけ長く一緒にいたのだから、私が泳げないことくらい、雅斗だって知っていたはずだ。
ただ、雅斗にとっていちばん大切な人は琴美であって、私ではなかった。
私は脇役として、自分の立場をわきまえるべきだったのだ。
その後、私は琴美と親友になり、彼女と雅斗がどんどん近づいていくのを見ていた。
二人がお互いに想い合っていることはわかっていたから、私はそのことをわざわざ両親に話した。
何しろ、私の両親も雅斗の両親も、ずっと私と雅斗を結婚させたがっていたから。
でも、幸いにも、その話はまだ決まったわけではなかった。
だから、私は琴美を困らせるつもりもなかった。
けれど何年も経って、ようやく、世の中には思いもよらないことが起きるのだと知った。
琴美は死んだ。
私は雅斗と結婚し、5年にわたってこの悪縁に縛られ続け、最後には命まで失った。
胸の奥にほんの少し残った悔いのせいか、急に知りたくなった。雅斗は私の遺体を見たとき、どんな顔をするのだろう。
きっと、何の反応も示さないだけなのだろう。
深夜。北村家の屋敷。
雅斗は書斎で仕事を片づけている。
琴美を失って以来、彼は逃げるように仕事に没頭するようになった。そして、そのおかげで事業も目覚ましい勢いで発展した。
だからこそ、私の実家である槙沢家の事業をいとも簡単にのみ込むことができたのだ。
仕事を終えた雅斗は、こめかみを軽く押さえながら立ち上がり、窓際へ歩いていった。
外には、無数の明かりが灯っている。雅斗はそれを長いこと眺めている。
やがて、そばの机からタバコを一本取り出して火をつけ、陰鬱な目をして煙を吐いた。
これだけ長く知り合ってきたのだから、私は雅斗のことを誰よりよくわかっているつもりだ。
そんな様子を見れば、今の彼の気分がよくないことくらい、私にはすぐわかった。
ただ、どうして機嫌が悪いのか、それだけがわからない。
そのとき、書斎の扉がノックされた。
「北村社長」
「入れ」
使用人がカップをひとつ持って入ってきた。
「手作りのプレーンヨーグルトです。少し召し上がりませんか?」
「ヨーグルト?唯月の差し金か。言ってみろ、あの女はまた俺に何を企んでる?」
雅斗が皮肉っぽく問いかけた。
「えっと……違います」
使用人は唇をきゅっと結んだ。
「奥様がわざわざ種菌の選び方を教えてくださったんです。毎日作って社長に差し上げてほしいと。体に良いのです。
ただ、お電話をいただいたとき、奥様は少し気分がすぐれないようでした」
雅斗の目がわずかに動いた。
「出ていけ。
また唯月が何か芝居でもしてるんだろう。お前、まだここで働きたいなら、あの女を奥様なんて呼ぶな」
使用人の顔がさっと青ざめ、慌てて言い直した。
「唯月さんが……」
「持っていけ。二度と言わせるな」
雅斗が冷たく言い放った。
使用人は慌ててカップを抱え、その場を離れていった。
書斎には、また雅斗ひとりだけが残った。
どこか苛立った様子で椅子に腰を下ろすと、スマホを取り出し、私にメッセージを送った。
【唯月、こんな手で俺を操れると思うな。お前の思い通りになんて絶対にさせない。一生、楽になんかさせない】
送信は成功した。
けれど、以前のようにすぐ既読がつくことはなかった。
第4話
雅斗はスマホを置き、吸いかけのタバコを強くもみ消すと、何事もなかったように仕事の続きを始めた。
私のことになると、彼はいつも憎しみを抱いている。
だから結婚して5年、一度も使用人に私を「奥様」と呼ばせなかった。
私には、その資格がないと言った。
胸の奥が、針で刺されたようにチクチクと痛んだ。
どうして私は、死んだあとまで彼がどんな顔をするのかなんて、期待したんだろう。
もっと早く、諦めていればよかった。
夜はさらに深くなった。
雅斗は寝室に戻ったが、眠るつもりはなさそうだ。
自分でも理由がわからないまま、ひどく苛立っている。
雅斗は唇を舐め、思わずナイトテーブルへ目を向けた。
けれど、そこには以前なら毎晩あったはずのミルクがない。
昔、私が彼のそばにいた頃は、食事の支度から身の回りの世話まで、すべて私がやっていた。
雅斗は眠りが浅かったから、私は安眠効果のあるお茶を淹れ、温かいミルクを用意してあげた。
時間があるときはマッサージし、少しでも深く眠れるようにしていた。
けれど今、私を失った雅斗は、夜が明けるまでほとんど眠れなかった。
目を赤くしたまま起き上がり、寝室を出た。
「斉藤!」
秘書の健一がすぐに現れ、階段の下まで小走りでやって来て、2階にいる雅斗を見上げた。
「社長、どうされました?」
「病院へ行って唯月の様子を見てこい。もし自分が間違ってたとわかってるなら、連れて帰れ。もう騒ぎを起こさないというなら、家族のほうにもこれ以上つらい思いはさせない」
「かしこまりました」
健一が答えた。
その一部始終を見ていた私は、口元を少し歪めた。
――無理よ、雅斗。もう私を脅すことなんてできない。私はもう死んでいるんだから。
食卓で、雅斗がゆっくりと朝食を取っているとき。
病院から戻ってきた健一が、怯えたような顔で雅斗を見つめた。
「社長……唯月さんが……」
健一は言葉を濁した。きっと、私がいなくなったことをどう伝えればいいのかわからないのだろう。
何しろ、それは彼の落ち度でもある。
「あいつ、まだ戻る気はないのか?たかが子どもひとりのことで、そこまで俺に噛みつく必要があるのか」
雅斗は冷笑し、目には皮肉が浮かんでいる。
「そう伝えろ。これ以上こんなことを続けるなら、両親の暮らしだって、少しは厳しくなるとな」
健一は体を震わせ、かすれた声を絞り出すように言った。
「ですが、唯月さんは……亡くなりました!
2日前、郊外の廃ビルから飛び降りました。知り合いの警察官から聞いた話では、遺体はもう警察へ運ばれています。ただ、身元を証明できる書類を持っていなかったため、警察が関係者への連絡を取れなかったんです」
その言葉を聞いた瞬間、雅斗の目つきが鋭くなった。
健一のスマホに届いたメッセージを身を乗り出して確認すると、雅斗はふっと胸のつかえを吐き出すように息を漏らした。
まるでようやく何かから解き放たれたかのように。
彼は立ち上がって琴美の遺影を抱きしめ、狂ったように笑った。
「やっと琴美の仇を討てた。
唯月が死んだ。あいつは、やっと死んだんだ!」
だが、そのとき、突然玄関の扉が叩かれた。
使用人が玄関へ向かい、扉を開けた。
「どちら様ですか?どなたにご用ですか?」
「雅斗!雅斗に会いたいの!」
聞き覚えのある女の声に、私は一瞬、呆然とした。
そして、いつも冷静沈着な雅斗の表情が、その瞬間一変するのを目撃した。
雅斗は玄関まで駆け寄り、そこに立っている美女の姿を目にした瞬間、これまで誇りにしていた平静を完全に失った。
その人は――琴美だ。
5年前、私が死なせてしまったはずの、琴美。